ある日の朝のテレビで、「腰痛(ようつう)」のことをやっていました。現代人に多いとされている腰痛ですが、この番組では、「腰の痛(いた)みの85%は原因不明(げんいんふめい)」と言っていたんです。しかも原因不明の腰の痛みの犯人は、「腰ではなく実は脳でした。つまりストレスですね」って、福島県立医科大学・紺野愼一教授は言っていたんですねぇ。
この大学病院で、慢性腰痛(まんせいようつう)の患者さんの脳内血流(のうないけつりゅう)を測(はか)ったところ、約7割の人に血流低下(けつりゅうていか)があったというんだから驚きです。この番組では、痛み(=ストレス)は脳の側座核(そくざかく)という部位が関係していて、ここがストレスによって機能低下(きのうていか)しているために、痛みがいつまでも抜(ぬ)けないようなことも言っていたような・・。
まず腰痛の原因として思い浮かぶのは、「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」ですね。「鼠蹊(そけい)ヘルニア」っていうのもあって、これは子どもに多い脱腸(だっちょう)のことです。腸から飛び出すから「脱腸」。椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間にある椎間板というのが飛び出しちゃうことで、この飛び出た部分が神経を刺激(しげき)しちゃうから痛みが出ると言われています。でも、慢性腰痛の原因で椎間板ヘルニアは、わずかに5%程度だそうです。明らかに椎間板ヘルニアがあるにもかかわらず、まったく痛みがない人もいるんですよね。
昔は、椎間板ヘルニアは手術で取っちゃうことが主流でしたが、今ではほっといても自然に治っちゃうことがわかってきたんです。それはMRI(核磁気共鳴画像法・かくじききょうめいがぞうほう)ができてからなんですが、なんと、免疫細胞(めんえきさいぼう)であるマクロファージ(貪食細胞・どんしょくさいぼう)が活性化して、出ている椎間板を消しちゃう(?)らしいんですね。X線レントゲンだけのころはわからなかったようなんです。医療技術(いりょうぎじゅつ)の発展のおかげでしょうか。
それにしても人間の体ってすごいですよねぇ~。そんなすごい体をもっているのにもかかわらず、痛みがある人が多いんです。痛みの基となるヘルニアがなくても、何故か痛い。逆にヘルニアがあっても痛くない。なんでだろぉ~♪なんでだろぉ~♪・・・(チョット古い!?)
ずいぶん昔の本で「椅子がこわいー私の腰痛放浪記(ほうろうき)」(文藝春秋刊)という本があるのですが、この作者の夏樹静子(なつきしずこ)先生はミステリー作家で、テレビのサスペンスドラマでも有名な方ですね。この本は、夏樹先生が自殺も考えたほどの腰痛体験記で、結局のところ腰痛の原因はストレス(心理的要因)だったんですけど、最後に行き着いた心療内科(しんりょうないか)までには、整形外科を含めていろんな治療を試したようです。詳しくは本を読んでみてくださいね。
で、結局のところ、心療内科医の「森田療法(もりたりょうほう=あるがまま)」という療法で治(なお)ったそうです。この療法、森田正馬(もりたまさたけ)先生(1874~1938年・東京帝国大学医科大学卒)が自(みず)からの神経症体験(しんけいしょうたいけん)を通して、1919年(大正8年)に創始した精神療法です。森田先生は東京慈恵医大(じけいいだい)の教授もされていて、「森田療法センター」っていうのが残っています。この森田療法のような治療法がずっと受け継がれてきたのは、何となく腰痛の原因がストレスだとわかっていたからなのでしょうね。それが今、医療機器の進歩で証明されつつあるのでしょうか。
あと、長谷川淳史(はせがわじゅんし)という人が書いた「腰痛は〈怒り〉である-痛みと心の不思議な関係」(2000年春秋社刊)」にも似たようなこと(サーノ博士のTMS理論)が書いてあるので、腰で悩んでいる方はこれも読んでみてくださいね。この本は、先ほどの「椅子がこわい」の夏樹静子先生がおすすめしている本でもあるんです。
それにしても、痛みの基(もと)が脳(心)にあるなんて、それも“ストレス=心”が原因なんて・・・。う~ん人の体って、心と密接(みっせつ)な関係にあるんですね。現代はストレスがたまる要素がいっぱいあるし、なかなか痛みがとれない方は、いちど心療内科の門をたたいてみるといいかもしれませんね。
※夏樹静子先生の「椅子がこわい」は文庫でも出ています。また有名な書評(しょひょう)サイト「千夜千冊」の松岡まつおか正剛(まつおかせいごう)氏もすすめていました。
※森田療法については「神経症の時代」渡辺利夫著(1996年TBSブリタニカ刊)もどうぞ。この本は第五回開高健賞(初の正賞)受賞。